2004/10/31

造船と建築

「異文化の交流」という言葉があります。
国や地域の違いにはじまり、人種や信仰、生活環境や職業、はたまた趣味嗜好の違いなど、人にはさまざまなバックボーンがあります。育ってきた環境や家族構成によっても、いろいろな考え方があります。同じ目的を持っていても、立場が違うと人それぞれ見方が違ってくるのです。



プロジェクトでもご紹介させていただいています「ゲートを持つ小住宅」が先日、無事竣工となりました。建築主のお父さんは新潟でも老舗の造船技術を持つ企業のなかで、長い間「船の設計」にたずさわってこられた方です。「異文化」というのはこのことで、はじめに私のHPをご覧になり、メールをいただいたのもそのお父さんでした。

当初のやりとりから、アトピーをもつお孫さんのことを気にかけておられて、「彼らのためになんとか良い住環境をつくりたい。」という切実な願いがひしひしと伝わってくるメールをいただきました。その熱意に対し、わたしも建築にできること、それは単に材料の安全性の問題だけではなく、日々の生活での快適性や採光・通風など、住宅そのものの質を高める道具を造ろう。という思いで設計にとりかかりました。

お父さんからは設計の打合せ当初から、明確かつ的確な意見をいただいていました。
時には「さし」で酒を酌み交わしながら、興味深いはなしに聞き入りました。


「造船と建築」
一見、関連性のない分野と思われがちですが、これは非常に密接な関係があります。(というか、密接な関係があることが今回良くわかりました。)

建築というものは安定した陸の上に建ち、水や電気・ガスなど、十分に供給される、という環境のもとに成り立っているものです。

それに対し、船というものは海に浮かぶ孤島のような環境で、日々、波のうねりや暴風雨、塩分たっぷりの海水にされされ、ライフラインと呼べるものは全て寸断された状態で、数ヶ月から1年以上に渡りそこで生活する人たちの命を守っていくという、我々には想像もつかない環境のなかで、生き抜くための技術が結集された道具なのです。

そこには無駄というものは存在せず、すべてのものが確実な状態で設計され、作られていきます。北へ漁に出かける船は、マイナス何十度という環境の中で、「住環境」を確保し、振動に耐える構造を持ち、まさにそこで日々仕事をする男たちの命を守っているのです。
建物に対する的確な要求はもちろんですが、「希望事項はすべて工事が始まる前、設計のときに言いなさい。」という若夫婦へのアドバイスも、まさに物づくりのポイントを押さえたアドバイスで、今回のプロデューサー的な存在、それがお父さんでした。


先日、竣工のお祝いの席が設けられ、わたしもご招待をいただきました。設計者・技術者として、そんな彼の話しを聞きながら、同じ住環境でも立場の違いでいろんな視点があるということを改めて実感しました。その席で、お父さんのお父さん(おじいさん)も造船の技術者をやっておられたということをお聞きして、まさに筋金入りの技術者であることがわかりました。
きっかけとなったHPについて、お父さんからは「玄人好みの内容だね。」といわれ、確かに<イメージたっぷりの素人向け。>ではないな・・・。と思いながら、でもわたしとしては、そんなお父さんから今回の建物についてお褒めの言葉をいただき、いたく感動しました。

また、若奥さんが作ってくれた、アトピーに影響のないように吟味された食事をいただいて 「限られた食材でも、こんなにうまい食事ができるのか!」 とまたまた感動しました。掃除好き?でやさしいご主人と一緒に家族一致団結して、この家もかわいがってやってほしいな・・・。あとは元気のいい男の子二人、かわいい子供たちがすくすくと育って「我が家」に愛着を持ってもらえればいいな・・・と思いながら帰路についた1日でした。


普段、自分たちのやっていることが最善かどうかということは、自分たちの目線、あるいは世界観での判断です。同じものでも違う目線で観ると、また違って見えるのかもしれません。「異文化」という違う立場のプロフェッショナルと接し、そういう目線を持つことは、建築だけではなく全ての職業、あるいは日々の生活のなかでも、大切なことだということが良くわる、そんな貴重な経験でした。